D2Cという言葉は“バズワード”とすら呼ばれ、日本のベンチャー投資でも最も盛り上がっているカテゴリーの一つです。
そんな話題のD2Cですが、その本質まで理解している人はどれほどいるでしょうか?
D2Cを単なる「メーカー直販ビジネス」あるいは「中間マージンを抑えた中抜きのビジネスモデル」と考える人が多いような気がします。
その答えは正解ではありますが、D2Cの本質ではありません。
D2Cの本質は、顧客(お客様)との関係性の変化にあります。
この記事では、それが具体的にどういうことなのかを実際に海外発D2Cブランドのサポートを行っている筆者が、D2Cの基本中の基本をお伝えしながら解説します。
また、一見欠点のないように見えるD2Cのビジネスモデルには課題と限界があるのも事実です。
この記事を読んでD2Cの本質と課題まで理解できれば、D2Cについての教養のみでなく、未来のビジネスまで見えてきます。
D2Cとはなにか?まずは基本中の基本を理解しよう
“バズワード”とすら呼ばれているD2Cですが、今は完全に世界がD2Cバブルとも言えるような状態です。
そんなD2Cと呼ばれるビジネスの基本は何なのかを、ここでは丁寧に解説していきます。
その定義と特徴、他の似たビジネス用語との違い、D2Cが発展した背景まで理解することで、D2C全体の理解を深められるはずです。
D2Cの定義と特徴
まずD2Cの定義ですが、D2Cとは「Direct to Consumer」の略称であり、つまりメーカーが顧客(お客様)に直接商品やサービスを届けるビジネスモデルのことを指します。
このビジネスモデルのメリットは、卸売業者や小売業者といった中間業者を省くことでコストを抑え、顧客とメーカーの利益を最大化できることです。
このD2Cという概念は、2008年創業のアメリカのスタートアップ企業(ブランド)が起点とされており、その歴史は意外と古いです。ここ数年で誕生した概念ではありません。
そんなD2Cと呼ばれるブランドの主な特徴がこちらです。
- 実店舗ではなく、インターネットやデジタルが起点であり、主戦場である
- 自らがメーカーであり、自らが顧客に商品を直接販売する
- これまでの伝統的なブランドに比べ、安価である(可処分所得の低いミレニアル世代をターゲットとしているため)
- 販売のみでなく、SNS等を活用してPRやマーケティングを顧客に直接行う
- メーカーの皮を被ったテック(テクノロジー)企業であり、データ分析などのテクノロジーを活用する
- インターネット企業のような爆発的な急成長を目指す
- 機能性を持った商品を売るのではなく、ライフスタイルを含んだブランドの世界観を売る
- X世代以上ではなく、ミレニアル世代をターゲットにする
- 顧客は「お客様」ではなく、「ブランドを一緒に作る共創者」である
以上です。
少し概念が難しいかもしれませんが、要約すると、「インターネットやSNSのデータを活用して顧客に直接ブランドを売り出す、テック×小売企業」というのがD2Cブランドです。
これまでの伝統的な小売企業(メーカー)とは特徴が異なっているのは理解できるかと思います。
中間業者を排除することでメーカーは顧客と直接関係を築けるようになり、より親密なコミュニケーションが取れるようになりました。
そもそもなぜこのようなビジネスモデルが発展したのかは、後ほど解説します。
D2Cと他のビジネス用語(BtoB、BtoC、SPA)との違い
D2Cの定義と特徴を理解できれば、その他の似たビジネス用語との違いを理解することは簡単です。
それぞれ簡単に解説をします。
BtoB
BtoBとは「Business to Business」= 企業間取引のことです。
文字通り、企業対企業での取引形態(取引関係)のことを指します。
BtoC
BtoCは「Business to Consumer」= 企業対一般消費者取引のことです。
D2Cと同じように見えますが、あくまでBtoCは取引形態(取引関係)のみを表す言葉です。
D2Cという言葉はビジネスモデルとしての用語なので、少しBtoCと混同されがちです。
SPA(製造小売業)
これがおそらく最も分かりづらいと思いますが、D2Cは、SPAと呼ばれる商品の企画・製造・販売を一貫して行う製造小売業というビジネスモデルとよく混同されます。
SPAもD2C同様にメーカーとしての機能を持ちながら、中間業者を省いて消費者に直接商品を販売しています。
日本企業だと、ユニクロや無印良品、そして最近話題のワークマンもこのSPAのビジネスモデルで成功している企業です。
しかし、SPAとD2Cの違いは、商品の売り方にあります。
SPAは、伝統的な小売業者同様の実店舗ビジネスです。
それとは反対にD2Cブランドは、インターネットやSNSを主戦場として商品を販売しています。
これが、SPAとD2Cの大きな違いです。
D2Cがビジネスとして発展した背景
ではなぜ、D2Cというビジネスモデルがバズワードと呼ばれるまでに発展してきたのでしょうか。
それには下記のような背景があります。
- デジタルネイティブと呼ばれるミレニアル世代(1981~1997年生まれ)やZ世代(1998~2016年生まれ)といった新しい巨大な消費世代の誕生
- デジタルネイティブが増える=オンラインでの商品購入者が増え、オンラインを主戦場とするD2Cの強みが出せる
- D2Cにはウェブマーケティングに強い人材が揃っている
- モノ消費からコト消費への時代の変化に伴い、D2Cが得意とするコト付きのモノ消費トレンドを掴んだ
(例:CasperというアメリカのマットレスD2Cブランドが昼寝スペースの提供ビジネスを開始し、「睡眠」を中心としたライフスタイルごと販売) - 商品の機能性ではなく、ブランドの世界観や社会的価値、環境問題への取り組みを求める消費者が増えた
以上です。
次でさらに詳しく解説をしますが、D2Cが発展した一番の背景には、顧客(お客様)との関係性の変化があります。
D2Cの本質を理解することで、未来のビジネスが見えてくる
このD2Cの本質を理解することが、筆者は一番重要だと考えています。
なぜなら、この本質を理解することで、D2Cの先にある未来も読めるようになるからです。
繰り返しますが、D2Cの本質は顧客(お客様)との関係性の変化にあります。
これまで一般的に、消費者は実店舗で商品を見て購入する人が大半でした。
しかし、Amazonをはじめ多くのECプラットフォームができあがり、InstagramやTwitter、FacebookなどのSNSが発達し、消費者にとって商品やブランドをオンラインで見定めて購入することは当たり前になりました。
そんな時代の変化の流れで、デジタル上で顧客と直接コミュニケーションを取って販売ができるD2Cというビジネスモデルは必然的に生まれました。
これは、新しいビジネスモデルや形態というよりも、既存の小売業態の変化です。
事実、一部大手ブランドや大手小売業者も、D2C化に大きくビジネスモデルを転換しています。
顧客との関係性、ものづくりのプロセス、ブランディングするための人材や組織、商品の売り方を見直すということ自体がD2Cなのです。
これからD2Cとして販売される商材は多様化し、全業界、全企業はD2C化していくかもしれません。
しかしD2Cはゴールではなく、新しい小売形態の呼称でもあるので、さらに形態が発展してD2Cという言葉自体が今後消える可能性も十分にあり得ます。
そういった意味でもD2Cというバズワードに踊らされず、その本質を理解し未来を読むことが大切です。
D2Cの課題と限界
最後に、D2Cには課題と限界があるということを説明します。
新しいビジネスモデルとして現れたD2Cですが、実は完璧なビジネスモデルではないのです。
D2Cのメリットは、デメリットにもなる
D2Cのメリットとして、中間業者を省きコストを削減できるというものがあります。
しかしそれは同時に、すべてを自力で行わなければならないということです。
通常、D2Cブランドは小規模精鋭で始めるスタートアップ企業が大半のため、これらをすべて自力で行うのはかなり大変です。
筆者も実際に海外発D2Cブランドの様々なサポートを行っていますが、簡単ではありません。
商品企画と製造、ブランディング、ウェブサイト(ECサイト)制作、ウェブマーケティング、コンテンツ制作だけでもとんでもない時間と労力がかかります。
特にコンテンツ制作は、ブランドストーリーを伝える上でD2Cにおいて最も重要なことであり長期的に継続して行うものなので、かなりの時間が必要です。
そしてこれらに加えて実際に商品が販売できたら行う実務も、物流管理・カスタマーサポート・経理業務などなどたくさんあります。
趣味程度の規模で小さく展開するなら少人数でもなんとか可能ですが、D2Cを企業の事業としていくためにはハードルはなかなか高いと言えます。
D2C事業は規模の拡大には向いていない
なんとかD2Cを企業の事業として機能するレベルまでブランドを拡大できたとします。
しかし、D2Cのビジネスモデルには実は規模拡大の限界があります。
D2Cブランドは、ある一定の規模まで拡大すると成長のジレンマに陥るのです。
これまでの売上規模拡大のペースを落とさずに企業を成長させようとすると、結局は伝統的な小売企業と同じ事業拡大プロセスを追うことになります。
つまり、実店舗を拡大し、広告・プロモーションを打ち出し、Amazonや大手小売店などの販売チャネルも利用するようになります。
なぜなら、X世代(1965~1980年生まれ)以上のデジタルネイティブではない世代には、D2Cブランドが得意とするデジタル領域での世界観や商品の販売ができないからです。
そういった世代の人たちは特に、まだまだ伝統的な小売店で商品を購入する人が大半です。
以上から、世界観やブランドストーリーをデジタル上で直接顧客に伝えて規模を拡大していくのは、売上高50~100億円程度までが今は限界と業界では言われています。
そこを超えると、伝統的な小売企業と同じ安定的な成長曲線を目指すしかなくなるというジレンマがあるのです。
これが、D2Cのビジネスモデルの限界です。
まとめ
この記事では、特にD2Cについて分からないことが多い初心者の人に向けて解説してきました。
もう一度内容を思い出しながら、下記振り返ってみてください。
- D2Cの定義と特徴
- 他のビジネス用語、ビジネスモデルとの違い
- D2Cが発展してきた背景
- D2Cの本質
- D2Cの課題と限界
特にビジネスマンにとってD2Cというワードは、知っていて当たり前の必須ワードになりつつあります。
しかし、日本はD2C最先端を走るアメリカに比べるとかなり遅れている面が多いです。
この記事が少しでも多くの人の役に立てば幸いです。